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■ご本人にあった歩行器を見つけるには

理学療法士の大渕哲也先生に、歩行器に関してお話しをして頂きました。
大渕哲也先生
[PROFILE]大渕哲也(おおふち・てつや)
1962年生まれ。倉敷市川崎リハビリテーション学院卒業。岡山県内で市町村老人保健事業に携わったのを皮切りに、自治体や民間企業で在宅高齢者への支援を続けている。豊富な現場経験をベースにした「老人介護についての個人的HP」は人気のwebサイト。


歩行器にも、さまざまなタイプがある

 高齢者の歩行を支援する福祉用具に、歩行器があります。介護保険のなかでは貸与品目の一つに「歩行器」が位置づけられていますが、一般的には歩行車、シルバーカー、キャリーなどと呼ばれることもあり、名称はいろいろです。それだけ、まだまだ認知が広がっていない福祉用具でもあるように思います。
 歩行器には、さまざまなタイプがあります。細かく区分けすると多岐にわたりますが、脚部分の構造から大きく分けると、次の3種類になります。

  (1) 4脚すべてが車輪になっているもの(4輪タイプ)
  (2) 前2脚が車輪、後ろ2脚には車輪がないもの(2輪+2脚タイプ)
  (3) 4脚すべてに車輪がないもの(4脚タイプ)


 すべてが車輪になっているものでは、このほか、4輪ではなく3輪のものや、車輪(キャスター)が引っ込んで脚になるものなどもありますが、基礎的な知識として、まずこの3種類くらいは覚えておいてほしいものです。
 また、取っ手の部分(肘を乗せる部分)が、横方向の支持(横持ち)になるのか、縦方向の支持(縦持ち)になるのかも、歩行器選びの重要なポイントになります。

身体状況にあったタイプの歩行器を

 では、どのような選び方をすればいいのか、その基本についてお話していきます。
 まず、腰が曲がっているだけで一人歩きができる方なら、最も一般的な4輪タイプで、取っ手が横持ちになるものがいいでしょう。歩行器を支えに背筋を伸ばしながら、リヤカーを押すように素直に前進していくことができます。車輪(キャスター)は自在に回転するもので問題ないでしょう。
 膝が変形してO脚になるなど、歩くときに左右に揺れ動くような方も4輪タイプが使えますが、取っ手は縦持ちがいいでしょう。縦持ちの方が、身体の左右の揺れを支えやすくなるからです。
 左右の動揺が大きい方の場合は、安定性を保つために、2輪+2脚タイプにするのも方法です。4輪タイプを選ぶなら、車輪の回転がない固定のものにしてください。車輪が自在に回転するものだと、身体の揺れに合わせてジグザグに進んでしまいます。
 足を小幅にしか出せず、足先を引きずりながら歩くような方の場合は、2輪+2脚タイプか、4脚タイプにしてください。すべての車輪が動く4輪タイプを使ってしまうと、歩行器だけが前へ流されて身体を転倒させてしまう危険がありますので、注意しましょう。取っ手は縦持ちがいいです。
 パーキンソン病を患っている方など、最初の一歩がなかなか踏み出せない「すくみ足」の方の場合は、4脚で箱形のフレーム状になっているものがいいでしょう。
 また、片マヒの方には、いずれのタイプの歩行器もオススメできません。歩行を支援するための道具としては、普通の一点杖か、より安定性のよい多点杖を選んでください。

歩行器のここもチェックして

 次に、歩行器を選ぶ際に意外と見落としがちな点について、お話していきましょう。
 まずは、取っ手部分の高さです。身体を支えながら歩行器を前進させていくには、ご本人にあった高さに設定できるものを選ばないといけません。その目安ですが、だいたい「おへその高さ」だと考えていいでしょう。専門的に言うと「骨盤の上前腸骨棘」の高さということになります。
 歩行器のなかには、小休止のための腰掛けシートがついたものもあります。長い時間座り込むためのシートではありませんが、せっかく使うならば、座りやすい高さのものを選びたいものです。一般的に外国製のものは、日本人の高齢者には高すぎるものが多いように思います。
 先ほどは説明を省略しましたが、同じ4輪タイプでも、私は乳母車型と小型4輪型に分けることができると考えています。大きな違いは取っ手の位置で、乳母車型のものは取っ手がやや後ろについています。身体を支えようとして上から体重をかけると、前輪が持ち上がってしまう欠点がありますが、歩行器の進行方向を変えやすい利点もあります。
 ブレーキに指が届きやすいかどうかも、重要なチェックポイントです。高齢者のなかには手が小さい方も多いですから、楽に握ってブレーキに指が届き、ブレーキそのもののきき具合も良いものを選びましょう。また、外見上はわかりにくいのですが、車輪(キャスター)の品質にも、ばらつきがあるように思います。実際に押してみて試すようにしてください。
 これらの点を総合的に判断して、できるだけ自分にあった歩行器を探し出してほしいと思います。

歩行器をお使いになる前に

 歩行器は、足下が不安定な方の歩行を支援する道具として、便利な福祉用具ではありますが、使い始める前に検討しておきたい点があります。
 一つは、履き物の問題です。時々、サンダル履きのままで歩行器につかまりながら歩いている高齢者を見かけますが、足下がおぼつかなくなった方の場合、脱げやすいサンダルを使うのは考えもの。しっかりと足を包み込める靴を履いて歩行器を使ってほしいものです。これは屋内でも同様で、スリッパを使う習慣は見直すべきでしょう。最近では、室内で履ける靴も出回っています。
 外出時に靴を履くことを基本にするならば、玄関口に、靴を履くときにちょっと腰掛けられるような小椅子も準備したいところです。
 次に、新しい道具への慣れの問題です。歩行器だけに限りませんが、長い間、健常な状態で暮らしてきた方にとって、福祉用具は異質なものです。昨日まで全然使っていなかったものを突然使おうと思っても、なかなか馴染めないのも無理はありません。
 そこで、比較的症状の軽いうちから徐々に歩行器に慣れ親しんでいただく工夫が大切です。歩行器を手に入れたからといって、「今日からすべて歩行器で歩く」と杓子定規に決めつけず、「長い距離を歩くときは歩行器を使う」「買い物に行くときは歩行器を使う」など、徐々に慣れてもらえるような支援を考えたいところです。  また、なかには「歩行器なんて(福祉用具なんて)いらない」と強情に拒む高齢者もいます。自分の老いをなかなか認めたくないタイプの方です。私自身、現場で何度もこうした光景に遭遇してきました。そこで私は、お孫さんからプレゼントしてもらうという作戦を時々使っています。子供さんやケアマネージャーが薦めると抵抗を示す方も、案外、すんなりと使い始めてくれる場合が多いようです。どうぞ、試してみてください。
 最後に、家屋内の歩行環境の問題です。これは住宅改修(改造)とも関わるお話ですが、室内で歩行器を使う場合は、ほとんどの廊下で手すりがじゃまになってしまいます。手すりを伝い歩きして移動できる間は、手すりが便利な支持物になりますが、歩行器を使うようになれば、手すりの撤去も考えたほうがいいでしょう。今後、住宅改修をお考えの場合は、将来の身体状況の変化も見越した設計を考えたいものです。
 また歩行器を使う・使わないに限りませんが、夜間は足下照明をオススメします。高齢になれば蓄尿能力が衰え、夜中におトイレに行きたくなる方も多いはず。住み慣れた我が家でも、ちょっとした段差につまづいて転倒し、骨折に至ってしまうこともありますので、十分に注意したいものです。